「教室には行きづらいけれど、学校の中で安心できる居場所があれば嬉しい。」
そんな思いをもつ小・中・高校生やそのご家族にとって、校内教育支援センター(校内フリースクール)は一つの選択肢になりつつあります。
この記事では、そんな校内教育支援センター(校内フリースクール)とは何か、どんな過ごし方ができるのかなどについて解説します。

校内教育支援センター(校内フリースクール)とは?
「校内教育支援センター」とは、簡潔に言えば、学校には在籍したまま、教室以外の場所で過ごしたり学んだりできる校内の第2の居場所です。
教育支援センターが、学校内にあるというイメージです。
(関連記事:教育支援センターって?|子どもと家庭に寄り添う公的支援)
教室での集団生活や授業が苦しくなった児童生徒が、
- 学校とのつながりは保ちながら
- 自分のペースで
- 安心して過ごせる
ようにするための仕組みとして、自治体や学校単位で整備が進んでいます。
文部科学省の「COCOLOプラン」において校内教育支援センターは、「自分のクラスに入りづらい児童生徒が、落ち着いた空間の中で自分に合ったペースで学習・生活できる環境を学校内に設置します。自分のクラスとつなぎ、オンライン指導やテスト等も受けられ、その結果が成績に反映されるようにします。」
と説明されています。
校内教育支援センターと別室登校との違い
これまで、もしくは今でもこうした場は、学校内においていわゆる「別室」が担っているかもしれません。
「別室登校」という言葉を聞いたことがある方も多いのでしょうか。
登校はしているけれど、教室には行きづらい。
そんな時に保健室や相談室、またはその他の空き教室等を利用して、落ち着いて過ごせる場所を提供したり、空き時間の先生が一緒に過ごしたりしていました。
しかし、特に制度として位置付けられていたものではなく、現場の先生たちが子供たちのニーズに合わせて、できる範囲で対応していたもので、学校間における差も必然的に大きくなります。
そういう意味で、上記の「 COCOLOプラン」において「校内教育支援センター」が明確に位置付けられたことは大きな意味があります。
もちろんまだまだ整備が進んでいる段階であり、空間的側面、人員的側面など多くの面で課題もあり、運用面においても地域間、学校間での違いも大きいことでしょう。
しかし、こうした設備が必要であるという認識が広がっていること自体が大きな前進と考えられます。
これまでの「別室」とは異なり、ただ「教室とは別の場所」ではなく、心のケアや成長を支えるための校内の支援拠点として位置づけられていることが多いのが特徴です。
校内教育支援センターの利用の対象は?
校内教育支援センターを利用するのは、例えば次のような児童生徒です。
- 教室にいると不安で落ち着かない子
- しばらく休んでいたけど、少しずつ登校し始めた子
- 丸一日教室で過ごすことが辛い子
利用している児童生徒の実態は学校によってまちまちでしょう。
いずれにしても、こうした子どもたちにとって、「学校には行くけれど、教室ではない場所で過ごす」という選択肢があることは、大きな安心につながります。
なぜ今校内にフリースクールが必要なのか?
文部科学省の調査でも、不登校の児童生徒数は過去最多を更新し続けている状況が続いています。
背景には心理的な要因や対人関係、環境的要因や学習に関する悩みなど、様々な要因が複雑に絡み合っています。

(関連記事:不登校と居場所ー安心できる環境とは)
一方で、学校現場では、
- 一人ひとりに丁寧に関わりたくても、時間も人手も足りない
- 教室で40人近い子どもを見ながら、個別の支援に手が回らない
- 従来の「頑張って教室に戻そう」という支援だけでは限界を感じる
という声も多く聞かれます。
現場においては、データとしては上がってきていない、学校や教室での集団生活に馴染めず、苦しんでいる児童生徒が多数います。
そのため、「学校に行くこと=教室で過ごすこと」という図式が、新たな苦しみを生んでいる可能性があるわけです。
「学校には来ているのだから、教室にも戻れるはず」「教室にすぐに戻れるように支援していこう」
という考え方だけでは限界が来ていると言えるでしょう。
実際に、
- いきなり教室に戻るのはハードルが高すぎる
- 無理をして戻った結果、かえって状態が悪化してしまう
- 「教室に戻れない=失敗」というイメージが、本人や保護者を追い込む
といったケースも多く見られます。
そこで今、教室とは別の「第2の居場所」を学校の中につくることが、現実的で大切な支援の一つとして注目されているわけです。
学校の中に「第2の居場所」をつくる意義
校内教育支援センターは、
- 学校(先生たちとも)とのつながりを保ったまま
- でも教室で感じる苦しさからは距離をとりながら
- 子どもが「自分のペース」を取り戻していく
ためのクッションの役割も期待されます。
「学校に行くか、行かないか」の二択ではなく、
「学校にいるけれど、教室以外で過ごす」というグラデーションのある選択肢があることで、子どもも保護者も、そして学校も、少し息がしやすくなるのです。
校内教育支援センターではどう過ごすのか
では、校内教育支援センターではどんな風に過ごすのでしょうか。
実際の中身は学校や自治体によって大きく異なりますので、あくまでよく見られるイメージを紹介します。
安心して休める「居場所」として
校内教育支援センターは、まず「安心していられること」をとても大切にしている場所です。
- 静かに本を読む
- 塗り絵や工作、簡単なボードゲームやカードゲームをする
- 職員と会話をする
- 個別の学習(プリント教材など)に取り組む
- 教室とオンラインでつなぎ、リモート参加する
といったように自分のペースで学び、過ごせることが基本です。
環境設定としても、教室とは違った雰囲気をつくるためにソファやぬいぐるみなどが用意されているなど、子どもがホッとできる環境づくりを工夫している場合もあります。

心のケア・対人関係サポート
校内教育支援センターにおいて、心のケアや対人関係のサポートを行っている場合もあります。
特に悩みが増えてくる思春期の時期や、対人関係に不安を感じる際に、安心して相談できる場所として機能することも大きな価値と言えるでしょう。
このように、ただ「別室」として過ごすだけでなく、様々な役割が期待されていることも校内教育支援センターの特徴です。
過ごし方のルール
多くの児童生徒の利用が考えられる校内教育支援センターだからこそ、そこに一定のルールは必要です。
個別のニーズの対応のため、ルールは柔軟に適応されていることがほとんどですが、それでも秩序のためには一定のルールは不可欠です。
こうしたルールについては当然設置されている学校によって異なります。
筆者がこれまで目にした校内教育支援センターの中には、誰でも利用できるけど、原則として1日1時間までというルールを設定しているところもありました。
多くの児童生徒の心の拠り所になっていたことでしょう。
一方で「1日1時間」だけでは難しいケースがあることも想像でき、あくまでも「原則」というところも肝心です。
学力は大丈夫?学習の遅れが心配・・・
「このままでは勉強が遅れてしまうのでは?」
「学習についていけなくなったら、本人がもっとつらくなるのでは?」
こうした不安を抱えることはとても多いですよね。
校内教育支援センターでは、プリントやICT教材などを使って自分ペースで学習に取り組んだり、まずは得意な教科から学習をスタートさせるなど、「今の状態でできる学び」を一緒に考えてもらえることが多いです。
また、ある時期はあえて学習量を減らして、「心と体を休めることを優先する」という選択肢もあります。
短期的には学習の遅れが不安でも、しっかり休んでからの方が、長い目で見て良い結果にいたることもあります。
このあたりは、本人ともよく相談しながら方針を決めていくと安心です。

外部フリースクール・支援機関との違いと連携
校内教育支援センターと、外部のフリースクール等の機関には、それぞれの良さがあります。
校内教育支援センターの強みとしては、何より学校内にあることから、担任の先生や教科担当の先生と連携が取りやすく、多角的な支援が可能になるということでしょう。
また外部のフリースクールをはじめとしたその他の機関では、学校外にあることから活動内容が柔軟で豊富であることや、学校の先生方とは異なる大人との出会いがあるということも強みと言えるでしょう。
どちらか一方が優れているということではなく、本人の状況に合わせて、必要に応じて組み合わせて利用するという発想も重要です。
校内教育支援センター(校内フリースクール)を利用したい
利用をしたいと思った場合には、担任の先生をはじめ、スクールカウンセラー等に相談するところから、利用の仕方を検討していきましょう。
もちろん、実際にその場を見てみて、自分に合っていそうかを本人が確認することも大切です。
利用の仕方を検討する
状況に合わせて、本人も含めて利用の仕方を検討することも重要なプロセスです。
事例によって状況は当然異なりますが、例えば、まずは1日短時間からスタートしてみる。
何をするかについても、まずは落ち着いて場所に慣れることから始め、学習については焦らず計画を立てていくことなどが考えられるでしょう。
校内教育支援センター(校内フリースクール)の役割と特長まとめ
校内教育支援センターの役割
ここで改めて校内教育支援センターの役割を示すと、
- 教室復帰のためのステップ
- 安心して通える「もう一つの居場所」
の両方の側面を持っているとまとめられるでしょう。
大切なのは、
「いつまでに教室に戻るか」だけで計画を立てるのではなく、本人の状態や希望を丁寧に聞きながら、ゴールを一緒に考えていくことです。
仮に教室復帰を目指す場合でも、いきなりフルタイムで戻るのではなく、段階を踏んだ「ステップ」を一緒に考えていくことがポイントです。
例えば、
- 校内教育支援センターでの滞在に慣れる
- 行事や特定の教科だけ、教室に顔を出してみる(または部活やクラブ活動なども)
- 教室で過ごす時間を、週◯時間ずつ増やしてみる
- しんどくなったらいつでも戻ってよいと話しておく
といった形です。
もちろん「教室に戻る」だけを唯一のゴールにするのではなく、
- 校内教育支援センターを拠点としつつ、特定の授業だけ教室に参加する
- 校内教育支援センターと外部フリースクールを併用する
など、多様なゴール設定があっても良いと捉えることも大切です。

自分のペースで通える・休めるということ
校内教育支援センターには、
- 週に数日だけ行く
- 午前中だけ行く
- 体調がいい日だけ顔を出してみる
など、本人のペースに合わせた通い方ができる場合が多いです。
また、
- 「今日は話せそうだから、少し話したい」
- 「今日はしんどいから、静かに過ごしたい」
といった、その日の状態に合わせた過ごし方も、できるだけ大事にしてもらえる場所です。
「いつも頑張らなきゃいけない場所」ではなく、「頑張れる日もあれば、休む日があっていい場所」と思えるといいかもしれません。
人との距離を自分で決められる場所
校内教育支援センターでは、
- 一人で本を読んでいてもいい
- 職員とだけ話していてもいい
- 少人数から、一緒に過ごしてみることもできる
というように、人との距離を自分で決めやすいことが多いです。
無理に友だちをつくる必要はありません。
ただ、「ちょっと話してみたいな」という気持ちが出てきたときには、そっと背中を押してくれる大人がいる。
そんな場所であれば、その子にとって大きな支えになります。
「ゴール」ではなく「プロセス」を支える場所

校内教育支援センターは、
- 教室復帰のためのステップ
- 安心して通える「もう一つの居場所」
という二つの側面があることを先に述べました。
すなわち、「教室復帰というゴールに向けた準備の場」であると同時に、「現在のプロセスを安心して過ごすための場所」でもあります。
子どもによっては、教室に戻ることが目標になる子もいれば、校内フリースクールを拠点としながら、自分のペースで学ぶ形が合う子もいます。
大切なのは、「本人にとって、どんな学び方、ひいては生き方がしっくりくるか」を、本人・保護者・学校が一緒に考えていくことです。
「安心して通える場所がある」こと自体が力になる
教室に戻れるかどうかだけで、その子の頑張りや価値が決まるわけではありません。
- しんどいときに行ける場所がある
- 困ったときに話を聞いてくれる大人がいる
- 無理をしなくても受け入れてもらえる
そんな経験の積み重ねが大きな安心感を生み出し、今だけでなく、その後の長い人生においても大きな財産となるでしょう。
一緒に考えてくれる人がいることの意味
様々な悩みや不安というものは、「誰か一人が頑張れば解決する」わけではないことが多いです。
本人だけでも、保護者だけでも、担任の先生だけでも・・・たった一人で抱え込むのは、辛く苦しいことでしょう。
校内教育支援センターは、ある意味でその真ん中に立ち、「一緒に考えてくれる人がいるであろうとする取り組み」でもあります。
必要に応じて、外部の機関ともつながりながら、「本人が安心して生きていけるかたち」をみんなで探していくことが、今の時代に求められている支援のあり方ではないでしょうか。
まとめ
今回は、校内教育支援センター(校内フリースクール)について詳しく見てきました。
校内教育支援センター(校内フリースクール)は、まだ全ての学校にあるわけではありません。
それでも、「こういう居場所のかたちがある」ということを知っているだけで、選べる道はぐっと増えます。
もし、今まさに不安や迷いの中にいるのであれば、この記事が少しでも「次の一歩」を考えるヒントになれば嬉しいです。
